長野地方裁判所 昭和34年(行)4号 判決 1962年8月07日
長野県更級郡大岡村字甲三、三一〇番地
原告
師岡道人
長野市柳町一四番地
被告
長野税務署長 唐木正
右指定代理人検事
朝山崇
同
法務事務官 安部末男
同
大蔵事務官 植竹徳次郎
藤本作太郎
佐藤貞貴知
傘木実夫
右当事者間の昭和三四年(行)第四号所得税額調査決定取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(請求の趣旨)
「被告が昭和三二年八月九日なした原告の昭和三一年の所得金額を七五万円とする再調査決定のうち、所得金額四五万七、七九〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。
(請求原因)
一、原告は更級郡大岡村字甲三、三一〇番地において木材業を営むものであるが、昭和三二年三月一四日被告に対し、昭和三一年の所得額を四三万一、五〇〇円とする所得税の申告をした。ところが、被告は昭和三二年五月一八日原告の右申告に対し、所得額を一〇〇万円とする更正決定をなした。原告は右更正決定に不服であつたので、同年六月一一日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年八月九日所得額を七五万円とする再調査の決定をした。原告はこれに対し、更に同年九月一〇日関東信越国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和三四年一月一七日右請求を棄却する決定をなした。
二、原告が審査の請求をした際主張した所得金額は四三万一、五二九円であり、その算定の根拠は別表(一)、(イ)欄のとおりであるがその後調査した結果、原告の昭和三一年の所得金額は四五万七、七九〇円であることが判明した。その算定の根拠は別表(一)、(ハ)欄のとおりである。
三、右のうち、
(一) 収入金額について。
被告の主張事実のうち、別表(二)記載の株式会社柏屋綿店及び株式会社岡谷組に対する販売全部及び日原学校に対する売上金額のうち三万四、二三五円を超える部分は否認し、その余は認める。
(二) 期末棚却金額について。
被告の主張事実のうち、原告が大成建設株式会社の工事現場に木材を搬入したこと及びその一部が期末において未検収であつたことは認めるが、右搬入した木材は主として細木(足場丸太)、杭木等であり、そのうち未検収となつたのは、すべて虫害、腐敗、折損等により利用価値のなくなつたものであつた。そして、多少とも利用価値のあるものはこれを期末の棚卸に加えてあるから、被告の主張は失当である。
(三) 仕入金額について。
原告が昭和三一年中柳沢重則から一二万円、小川原博から二〇万円、松川政則から四万円、柳沢賢から二万七、〇〇〇円でそれぞれ買入れた立木合計三八万七、〇〇〇円の分は、審査の請求の際主張した仕入金額中には加えてなかつたので、これを加えると仕入金額は合計四五三万八、四六三円となる。
(四) 雑費について。
原告は昭和三一年四月差切地区における木材搬出のための架道と道路の修理を内山政樹に依頼し、その報酬として四万二、〇〇〇円を支払つたが、審査の請求の際主張した雑費の金額中にはこれを加えてなかつたので、これを加算すると雑費は合計七万七、四六六円となる。
四、従つて、被告の前記再調査決定のうち、所得金額四五万七、七九〇円を超える部分は違法であるからその取消を求める。
(請求の趣旨に対する答弁)
主文と同旨の判決を求める。
(請求の原因に対する答弁並びに被告の抗弁)
一、原告の主張等一項は認める。
二、被告の認定によれば原告の昭和三一年における所得金額は一三〇万八、二九六円であり、その算定の根拠は別表(一)、(ロ)欄のとおりである。
三、右のうち、
(一) 収入金額について。
収入金額八一七万六、五一九円の内訳は木材の販売による収入七四四万四、一六九円、木材の賃挽による収入七三万二、三五〇円であり、その明細を示せば別表(二)のとおりである、
(二) 期末棚卸金額について。
期末棚卸金額八〇万三、〇五三円の算定の根拠は次のとおりである。原告が昭和三一年中取引先である大成建設株式会社の工事現場に搬入した木材のうち、販売価格にして三三万六、七二六円に相当する分は、期末になるも検収にならず、いわば仮納入のままであつたので、その木材の原価は当然期末棚卸額に加算すべきであるが、原告が審査の請求の際主張した期末棚卸金額中には右木材の原価は算入されていない。ところで、原告の木材販売による所得率は販売価格を基準として一割であるから、販売価格にして三三万六、七二六円に相当する木材の原価は三〇万三、〇五三円である(<省略>)。
そこで、被告は原告の期末棚卸金額は原告の審査請求時における主張額五〇万円に右の三〇万三、〇五三円を加えた八〇万三、〇五三円が正当な額であると認めた。
(三) 仕入金額及び雑費について。
原告が原告主張の立木を買入れたこと及び架道と道路の修理を依頼してその報酬を支払つたことは否認する。
四、従つて原告の昭和三一年の所得金額は一三〇万八、二九六円であり、右は前記再調査決定額を上回ることがあきらかであるから、本件再調査決定に違法はない。
(証拠関係)
一、原告は甲第一ないし第三号証を提出し、証人柳沢憲幸及び同内山政樹の各証言を援用し、乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第六号証、第八号証、第九号証の一ないし三及び第一〇号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は知らない、と述べた。
二、被告指定代理人は乙第一号証、第二号証の一ないし三、等三ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇号証及び第一一号証の一、二を提出し、証人吉井松久、同三宅貞信、同丸山隆、同大井均及び同柳沢重則(第二回)の各証言を援用し、甲号各証の成立は知らない、と述べた。
三、当裁判所は職権で証人柳沢重則(第一回)、同小川原博、同松川政則、同橘忠助、同横川茂門及び同武居良栄並びに原告本人(第一、二回)の各尋問をした。
理由
一、原告が更級郡大岡村字甲三、三一〇番地において木材業を営むものであること、原告が昭和三二年三月一四日被告に対し昭和三一年の所得額を四三萬一、五〇〇円とする所得税の申告をしたこと、被告は昭和三二年五月一八日原告の右申告に対し所得額を一〇〇万円とする更正決定をなしたこと、原告は右更正決定に不服であつたので同年六月一一日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年八月九日所得額を七五万円とする再調査の決定をしたこと及び原告はこれに対し更に同年九月一〇日関東信越国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和三四年一月一七日右請求を棄却する決定をなしたことは、当事者間に争がない。
二、被告主張の原告の昭和三一年度における所得金額の算定根拠(別表(一)(ロ)欄)は、収入金額中株式会社柏屋綿店ほか二名に対する売上金一一万八、四五三円、仕入金額中柳沢重則ほか三名からの買入代金三八万七、〇〇〇円、期末棚卸金額中三〇万三、〇五三円、雑費中内山政樹に支払つた金四万二、〇〇〇円を除き当事者に争がないので、以下争点につき順次判断する。
三、収入金額について。
(一) 被告は昭和三一年度において原告は株式会社柏屋綿店に対し三万四、七五六円の売上金額がある旨主張し、成立に争のない乙第一号証、乙第九号証の一及び証人丸山隆の証言により成立を認める乙第一一号証の一によれば右事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果(第一回)は前掲各証拠と比照したやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(二) 被告は同年度において原告は株式会社岡谷組に対し五万七、七七七円の売上金がある旨主張し、成立に争のない乙第二号証の一ないし三、第九号証の三には右主張にそう記載があり、証人丸山隆は右と同様の供述をしているが、後記各証拠と比照したやすく措信し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。却つて証人横川茂門及び同武居良栄の各証言並びに原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、昭和三一年度において横川材木店こと横川茂門が株式会社岡谷組から材木の注文を受けた際その一部を原告から買受けて同会社に納入したことはあつたが、原告が直接右会社に木材を売渡したことはないことが認められる。
(三) 被告は同年度において原告は日原学校に対し六万〇、一五五円の売上金がある旨主張し、成立に争のない乙第九号証の一ないし三、原告本人尋問の結果(第一回)によれば右事実を認めることができ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
四、期末棚卸金額について。
被告は原告が大成建設株式会社の工事現場に搬入した木材のうち未検収の部分があるからその原価を期末棚卸金額に加算すべき旨主張するので判断するに、原告が大成建設の工事現場に木材を搬入したこと及びその一部が期末において未検収であつたことは当事者間に争がない。成立に争のない乙第八号証及び証人吉井松久の証言により成立を認める乙第七号証、証人吉井松久及び同大井均の各証言を綜合すると原告が昭和三一年中取引先である大成建設株式会社の工事現場に搬入した木材のうち販売価格にして四二万二、七三〇円に相当する分は期末になるも検収にならず、いわば仮納入のままであつたこと、同年一一月二〇日から翌三二年二月までの間に右木材のうち八万六、〇〇四円に相当する分が大成建設から原告に返品されていることをそれぞれ窺うことができ、右認定に反する原告本人尋問の結果(第一、二回)は前掲各証拠と比照し措信し難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて少くとも販売価格にして三三万六、七二六円に相当する分が期末になるも未検収のままであつたことが窺われる。原告は前記未検収となつたものはすべて虫害、腐販、折損等により利用価値のないものである旨主張するが、右主張に依る原告本人の供述(第一回)は信用できず、他に特段の立証のない本件においては前記未検収となつた木材は検収済の木材と同等の品質、価格を有したものと認めるのが相当である。そして、原告本人尋問の結果(第一回)によれば右木材の販売により原告の得た利益は販売価格の一割以下であることを認めることができるから、これを一割とみても販売価格三三万六、七二六円の九割にあたる三〇万三、〇五三円は右木材の原価として昭和三一年の期末棚卸表に計上すべきである。
従つて原告の期末棚卸金額は原告の審査請求時における主張額五〇万円に右の三〇万三、〇五三円を加えた八〇万三、〇五三円となる。
五、仕入金額について。
(一) 原告は昭和三一年中に柳沢重則から立木一二万円を買入れた旨主張し、成立に争ない乙第三号証、証人柳沢重則((第一、二回)及び同柳沢憲幸の各証言並びに原告本人尋問の結果(第一、二回)の一部(後記措信しない部分を除く)によれば原告は昭和三一年一一月頃柳沢重則から代金約金九万円で立木を買入れたことを認めることができ、右認定に反する証人吉井松久の証言及び原告本人尋問の結果は前掲各証拠に比照したやすく措信し難く他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(二) 原告は同年中に小川原博から立木二〇万円を買入れた旨主張するところ、原告本人尋問の結果(第一回)により成立を認める甲第一号証、証人小川原博の証言により成立を認める甲第三号証、証人小川原博の証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば右事実を認めることができ、右認定に反する乙第四号証証人吉井松久及び同三宅貞信の各証言は前掲各証拠に照らし措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三) 原告は同年中に松川政則から立木四万円を買入れた旨主張するが、右主張にそう甲第一号証及び乙第五号証の各記載、証人柳沢憲幸の証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)は証人吉井松久、同柳沢重則(第一、二回)及び同松川政則の各証言と比照したやすく措信し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
(四) 原告は同年中に柳沢賢から立木二万七、〇〇〇円を買入れた旨主張し、右主張にそう趣旨の甲第一号証、乙第六号証の各記載、証人柳沢重則(第一回)同柳沢憲幸の各証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)は、証人吉井松久及び同柳沢重則(第二回)の各証言と比照したやすく措信し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
かくして仕入金として認め得る金額は四四四万一、四六三円となる。
六、雑費について。
原告は内山政樹に四万二、〇〇〇円を支払つた旨主張するところ、成立に争ない乙第一〇号証及び証人内山政樹の証言により成立を認める甲第二号証、証人内山政樹の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)を綜合すると、原告は昭和三一年四月頃差切地区における木材搬出のための架道と道路の修理を内山政樹に依頼しその報酬として約四万円を支払つたことを認めることができ、右認定に反する証人吉井松久の証言は前掲各証拠と比照し措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そうだとすると雑費として認め得る金額は七万五、四六六円となる。
七、以上認定の事実及び当事者間に争のない事実に基いて計算すれば原告の昭和三一年度における所得金額は金九二万〇、五一九円であることが明かである。そうとすれば本件再調査決定額は金七五万円であつて前示所得金額の範囲内であるから本件再調査決定には何らの違法も存しないといわねばならない。
よつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中隆 裁判官 滝川叡一 裁判官 福永政彦)
別表(一)
(単位円。△印は不足額を示す)
<省略>
別表(二)
(一) 木材の販売先及び売上高
<省略>
(二) 木材の賃挽きによる収入
<省略>